仙台高等裁判所 昭和46年(ネ)120号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕しかしながら、手形金債権を被保全権利として手形債務者の動産に対し仮差押を執行し、その結果該債務者から手形署名の偽造を理由として被保全権利を否定する主張がなされたときには、右とは別個の観察を必要とする。すなわち、仮差押命令は債権者の一方的な主張と疎明に基づき、何ら債務者の弁解を聴かないで発せられるのが通例であり、特に本件の如く商品の販売を営む債務者の商品その他の有体動産に対して仮差押を執行することは、債務者の営業活動に対し致命的な打撃を与えるであろうことは通常の思慮分別のある人ならば当然予測しうることであるから、右のように手形署名の偽造を理由として被保全権利を争う主張がなされた場合には、債権者としては、事前にこの点に関する確認措置をとつている場合(本件においては控訴人が右措置をとつた形跡はない。)を除き、他人の権利を不当に侵害することのないよう改めて右主張の真否を確認するための充分な調査をなしたうえ、右仮差押の執行を維持継続するか否かを決すべきものである。
これを本件についてみるに、本件約束手形(乙第一号証)の被控訴人名下の印影は一見していわゆる認め印によるものであることが明らかであり、被控訴人から異議が出たのちの控訴人の調査によると、被控訴人は約一七〇万円の約束手形につき約三〇分という短時間に共同振出人となることを承諾し、かつ、右手形の共同振出を白紙的に与太郎に委任したことになる筋合であり、しかも本件手形の被控訴人の住所氏名は与太郎が記入し、同人において有合わせ印を押したもので、被控訴人自ら署名押印したものではなく、また右手形振出当時控訴会社担当社員が共同振出人たる被控訴人について保証意思の存否もしくは右署名押印の真否を確認する措置を講じていなかつたことが判明した以上、前記のような身分関係や過去の保証関係が存在したとしても、被控訴人から現に異議が述べられている段階においては前記与太郎の供述は直ちに措信しがたいもの(偽造者とされている者が本人の承諾を得たと供述しても、その供述は客観的な裏付のない限り直ちに措信すべきものではない。)というべきであるから、与太郎の右供述をうのみにすることなく、たとえ信頼のおける回答が得られないとしても直接被控訴人とも面接してその事情を調査し、その結果いかんによつてさらにその真否を裏付ける調査をなすべきであつたと認められる(もし控訴人において被控訴人に対し、直接面談のうえ、与太郎の主張する手形振出の承諾の日時、場所等を示すならば、また必要に応じて与太郎との対質の機会を作るならば、より早く真相が明らかになつたであろうことは、成立に争いのない甲第一八号証により容易に推測しうる。)。してみると、控訴人が被控訴人に対し、本件仮差押を執行したうえ、これを維持継続したことについては、その過失を否定すべき特段の事情があるとはいえず、右の如き事情のもとでは、右仮差押の執行による損害は債権者たる控訴人に負担させるのが公平の理念に合致するものと考える。
(羽染徳次 田坂友男 佐々木泉)